売られた喧嘩を買い尽くせ

売られた喧嘩を買い尽くせ

おーっす。おつかれさま。元気?おらミケット。
さっそく野蛮なタイトルで恐縮極まりない。

突然だが、私はとても小心者なので、フランスで喧嘩を売られちゃったらどうしよう、と日々恐れている。

道を歩いていて肩がぶつかり
「おん? お前何様だよ??」
などと言われるような、あからさまな喧嘩特売には幸いまだ出会したことはないが、いつそんなセールが巡ってくるかわからない。

日本人だから、アジア人だからという理由で難癖をつけられたことも幸いまだ無いが、アジアンヘイトな輩に出会う可能性だって大いにある。
フランス語わかりません的な立ち位置で、嘘をついて争いを逃れることもできるかもしれないが、逆に罵りが増す可能性もある。

赤の他人のみならず、周囲の知人にだっていつ喧嘩を売られるかわからない。
なんたってここは口論が飛び交う侃侃諤諤の国、フランス。
いつまでもこんな弱気な態度でいては、この殺伐としたフレンチ・ソサイエティを生き抜くことはできない。

強くなれ、ジャパニーズ・ガール。
こんなところで泣きべそをかいている場合ではないのだ。

そんなわけで、喧嘩を売られた場合に、なんとかして勝てる上手い弁論を見出さなくてはならない、と予々考えていた。

そしてとうとうある日、フランスの高原に引っ越したことで、マウントを取る方法を思いついたのだ。
喧嘩を売られたらこう返す。
「おん?喧嘩売ってるのか?私に喧嘩を売るなんていい度胸だ。
じゃあお前んちの標高何メートルか言ってみろよ??」
そう、物理的なマウントで勝つ方法だ。
なにせ私の住むオーブラック高原の平均標高は1000m。なかなか勝てる人はいない。

そんなことで勝ってどうするんだと野次が飛んできそうだが、価値観というのは人それぞれなので、一種の多様性として受け入れていただきたい。

どうだ、1000mだぞ。
全世界にドヤ顔で訴えたい。
フランスにおける移住地の平均標高は148m程度、1000mを超える場所に住む人口は26万人程度しかいないという。
パリに至っては35m。
勝てる気しかしない(標高が)。

しばらく優越感しか感じなかったが、最近になって新たな懸念が生まれた。
標高が明らかに低い場所に住む人から喧嘩を売られ、前述の如く1000mマウントを取ったとしても、
「標高1000m?
じゃあお前んちのお湯の沸点何度か言ってみろよ??」
と返されたらどうしようと。
そう、温度的なマウントだ。
盲点だった。これは勝てない。
おそらく相手側の住む場所の沸点は100度、こっちは97度にも及ばない。
悔しい。物理的にもなす術がない。

そんなことを争ってどうするんだとまた野次が飛んできそうだが、ダイバーシティ尊重の昨今、静かに温かく見守っていただきたい。

もはや沸点では勝つことができないと分かった今、沸点が低くたって優越感に浸れる何かを見つけなくてはならない。

数日間公園で小石を蹴飛ばし続けながら悩んだ末、最終的に私はこう返すことにした。
「沸点100度?
じゃあお前が好きなお茶の名前教えてみろよ??
温かいお茶限定でな!」
相手はたじろぎながらも答えるだろう。
烏龍茶、緑茶、紅茶、ルイボスティ、もしくはもっとマニアックな中国のお茶の名前とか出してくるかもしれない。
大歓迎だ。
大丈夫、なんたってこちとらお茶マニア、大半のお茶の淹れ方と温度を熟知している。
沸点が低い地での利点、それはすなわち、90度や80度で淹れるお茶が作りやすいところ。

いやいや待て待て、と、ここでも反論が飛んできそうだが、私は銅像の如く動じない。
筋の通った反論でさえも丁重に聞こえないふりをさせていただく。

勝手に言い訳をすると、私はお茶を淹れる際に、一度沸騰したお湯や沸騰寸前のお湯に温度計レーザーを当てて、温度を微調整している。
そのため、100度まで沸くお湯より、より低い温度で沸いてくれるお湯の方が、個人的に便利なのだ。

そんなこんなで、敵方の好きなお茶がわかったら、私は声を張り上げてこう返事をするだろう。
「お湯の沸点が低いおかげでなあ、個人的にはお茶が淹れやすいんや!
良かったら、我が家にお茶飲みに来ればいい!」

美味しいお茶、ご用意して待ってるからよ!

相手はたじろぎながらもお邪魔しますと言いながらやってくるだろう。
そして我々は美味しいお茶を囲んで、焼き菓子などを一緒に頬張るのだ。

あの時は標高なんかでいきっちゃってごめんね。
いやこちらこそ沸点とか正直どうでもいいよね。
お茶、美味しいね。
という具合に、結果和平へとつながるのだ。

めでたし、めでたし。

なんの話でしたっけ。
長文をお読みいただきありがとうございました。